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第35回教弘クラシックコンサート(2023年6月24日)

2023年6月24日(土)14:00~ コンサートホール
1) ロッシーニ/歌劇「アルジェのイタリア女」序曲
2) ラヴェル/ピアノ協奏曲ト長調
3) (アンコール)セヴラック/「休暇の日々」~「ロマンティックなワルツ」
4) モーツァルト/交響曲第40番ト短調, K. 550
5) (アンコール)シューベルト/劇付随音楽「ロザムンデ」間奏曲第3番
●演奏
喜古恵理香指揮オーケストラ・アンサンブル金沢(コンサートマスター:アビゲイル・ヤング)*1-2,4-5,篠永紗也子(ピアノ*2-3)

Review

6月恒例の教弘クラシックコンサートを石川県立音楽堂コンサートホールで聴いてきました。この公演は,今年で創設35周年となるオーケストラ・アンサンブル金沢(OEK)の設立当初から行われている公演で(名称は多少変わりましたが,回数も”35”とピタリと一致),ここ数年は,若手アーティストを紹介するような内容になっています。というわけで,今年は若手指揮者の喜古恵理香さんが小松定期公演に続いて登場。ソリストは,2020年の北陸新人登竜門コンサートのオーディションに選ばれた,金沢市出身のピアニスト,篠永紗也子さんでした。

ただし,篠永さんが選ばれた2020年5月公演は,コロナ禍の影響を大々的に受けてしまい,篠永さんはOEKと共演できませんでした。今回の共演は,聴衆以上に篠永さんにとっての待望の共演だったのではないかと思います。

後半メインで演奏されたモーツァルトの交響曲第40番,前半に演奏されたラヴェルのピアノ協奏曲はどちらもOEKが何回も演奏してきた曲でしたが,奇をてらったところのない,バランスの良い美しさと鮮やかなニュアンスの変化を持った演奏となっていました。

前半はロッシーニの「アルジェのイタリア女」序曲で始まりました。楽器編成的には,ティンパニなしで,大太鼓,シンバル,トライアングル,ピッコロが入る,「ちょっとエキゾティック風味があるかな」といった曲。音楽全体にカラッとした感じがあり,梅雨の時期の日本からすると,地中海気候がうらやましくなるような曲でした。

曲の最初はひっそりとしたピチカートで開始。その後,オーボエの加納さんの堂々としたソロが入りました。この曲の主役が登場するような華やかさな美しさがありました。その後,ピッコロが続きました。こちらの方は従者といったところでしょうか。軽快な動きが心地良かったですね。曲の構成は,「いつものロッシーニ」で,定番通り盛り上がる安心感がありました。

続く,ラヴェルのピアノ協奏曲ト長調は,過去OEKが色々なピアニストと何回も演奏してきた作品。シャンパンのような色のドレスを着た,篠永さんのピアノには,優雅でまろやかな味わいがありました。ただし,この日のOEKの演奏については,「ちょっと行儀が良すぎるかな」と感じました。第1楽章と第3楽章については,この曲の場合,もう少し弾けた味があると良いかなと思いました。途中出てくる,ホルンの高音も「苦しそう...」という感じでした。

2楽章での篠永さんのピアノのシンプルで暖かみのある歌は素晴らしかったですね。中間部では,キラキラとしたピアノの音に色々な楽器が絡んできて,ラヴェルならではのマジックのような世界になりました。この部分での聴きどころである,コールアングレを演奏していたのは,橋爪さんでしたが(4月にOEKメンバーになられて以降この楽器を演奏するのは初めて?),目立ち過ぎることなく,ぴったりと寄り添う感じが良いなと思いました。

第3楽章は速すぎることなく,かっちりとまとまった感じの演奏。小クラリネットの冴えた音が良かったですね。ただし,第1楽章同様,「ちょっとまとまりが良すぎかな」という感じはしました。

この曲の後,篠永さんのピアノ独奏で,セヴラック「休暇の日々」から「ロマンティックなワルツ」がアンコールで演奏されました。リラックスした気分と淡くセンチメンタルな気分の漂う曲想は,ラヴェルの協奏曲を受けるのにぴったり。絶妙の選曲でした。

後半は,モーツァルトの交響曲第40番,1曲でした。通常25分程度の長さなので,「これだけだとやや短いかな」と演奏前は思っていたのですがが,今回,第1,2,4楽章の前半部の繰り返しをしっかり行っていたこともあり,全体で30分ぐらいはかかっていたと思います。演奏自体にも十分の聴きごたえがあり,物足りない感じはしませんでした。アプローチとしては,起伏の大きなドラマを表現しようという感じではなく,古典派交響曲の到達点としての,しっかりとした構築感を感じさせるような,誠実な演奏だったと思いました。

第1楽章には,抑制の美があると思いました。中庸のテンポによる落ち着いた演奏には,楚々とした美しさがありました。その一方,展開部では,強く叫ぶようなクライマックスも作っていました。全体として,少々真面目すぎるかなという感じもしましたが,その分,古典的に整った美しさのある演奏だと思いました。

第2楽章も大げさな表情づけはなく,ごく自然に暖かな音楽が広がっていました。この楽章でも中間部では濃い味わいがありましたが,やり過ぎにはならず,楽章全体から「たたずまいの美しさ」のようなものが感じられました。

第3楽章は,きっちりと△を描くような,キリッとした演奏で,トリオでの大きく弧を描くようなしなやかな演奏と鮮やかなコントラストを作っていました。加納さんのオーボエがここでも美しかったですね。

第4楽章も極端に走りすぎることのない演奏で,その中からニュアンスの変化が明快に伝わってきました。この日は通常通り「クラリネット入り」の版での演奏でしたが,この楽章ではクラリネット(エキストラの方でした)のソリスティックな演奏が冴えていました。楽章の後半はガッチリとした対位法的な構築感を聴かせつつ,朴訥な感じで全曲を締めてくれました。

全体にやや大人しい感じもしましたが,その分,安心して古典派交響曲の構築感や美しさを楽しむことができる演奏でした。

アンコールでは,これまたOEKの定番アンコール曲の一つ,シューベルトの「ロザムンデ」間奏曲第3番が演奏されました。時が静かに流れていく美しさを感じさせるような演奏でした。ただし,繰り返しを全部省略していたので,あっという間に終わってしまった感じでした。

この公演は,若手アーティストが登場する内容になりましたが,誠実で率直さのある演奏を聴いていると,そのまっすぐな姿勢を応援したくなります。OEKの演奏からも,しっかり支えようという同様の気分が伝わってきました。来年はどんな若手が登場するのか,期待をしたいと思います。

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